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ニシクボサユリが、看護師やデザイナーを経てイラストを描くまで

Jan 9.2019
  • インタビュー・テキスト:栗本千尋
  • 撮影:中村ナリコ
  • 編集:川浦慧(CINRA.NET)

シティガールの日常をトリミングするような、味のある線画が人気のニシクボサユリさん。あえて色では説明せず、見る人の想像力をかきたてる余白を残したモノクロのイラストが魅力です。

雑誌『POPEYE』の表紙を再現したイラストばかりを集めた個展を開いたり、星野源さんの『恋』のミュージックビデオを258枚のイラストでアニメーションにしたりと、さまざまな表現に挑戦し、そのたび話題に。

ギャラリーコンパクトでは「持ち歩けるアートピース」をテーマに、「ウサギ」「自転車」「ランドセル」をモチーフにした3つのイラストを描いてくださいました。しなやかに生きる女性の新生活を応援するアイテムです。

自分の人生だし、いつかは終わりがくるから好きなことをやった方がいい。

小学校は全校生徒を合わせても7人。一番近いコンビニまでは車で30分。三重県熊野市のさらに奥、人口200人にも満たない過疎地域で生まれたニシクボサユリさん。看護大学を出て、看護師からイラストレーターになったという珍しい経歴の持ち主です。

ニシクボ母子家庭だったので、地元に残るしかないと早くから自覚していた気がします。地元だと、医療関係か公務員くらいしか仕事がありませんでした。

看護師として働いていたのは4年間。3年はオペ室の勤務で、残り1年は夜勤のみにして、空いた時間に独学でウェブサイトを作っていました。そのときは写真を撮るのにハマっていたので、自分の写真をアップしていくサイトです。

雑誌『POPEYE』表紙の再現イラスト
星野源『恋』ミュージックビデオをイラスト化しアニメーションにした動画
ウェブサイトのポートフォリオを携えて東京で就活し、ウェブの制作会社にいくつか内定が決まるも、それらを蹴って企業の保健師の仕事を始めます。

ニシクボ受かったのがウェブの構築系の会社だったので、自分が本当にやりたいデザイン系ではなくて。入社したら経験は積めるけど、勉強すれば誰でもできる仕事だよなって。少し大げさかもしれないですが、「自分しか作れないもの」を作りたいと思っていたのです。

それで、夜と土日の空いた時間を使って空間デザインの学校に通いながら、独学で絵を描き始めました。イラストレーターとしてやっていこうなんて一切考えてなかったんですが、イラストをInstagramにあげるようになってから、展示の話とかを結構いただくようになって。

看護師から思い切った転身ですが、迷いはなかったのでしょうか。

ニシクボ 看護師をしているときに、じいちゃんが亡くなったんです。じいちゃんは、好きなことをやって、本当に自由奔放な人だった。それこそ医療の現場にいたから、若くして亡くなる人を目の当たりにしてきたこともあり、自分の人生だし、いつかは終わりがくるのに、ただ単にお金を稼ぐために生きるのは嫌だなと思いました。

せっかく看護師免許っていう保険もあることだし、私も好きなことをやった方がいいなって思うようになったんです。親も、私が気を遣っていることに罪悪感を持っていたようで。それじゃ誰も幸せにならないですよね。

ニシクボサユリ

プロダクトをまるごと作れるようなチームを持ちたい。

ニシクボさんのもの作りへの根源的な欲求は、どこからきているのでしょう。

ニシクボお母さんは和裁士、じいちゃんは大工だったので、服でも家具でも、何でも「作る」姿を見ていました。本能的に「何だって作ることができる」とわかっていたような気がします。

ジャンルにとらわれず、写真、ウェブサイト、空間デザイン、イラスト、アニメーションと、さまざまな表現に挑戦されているのはなぜですか?

ニシクボ田舎から街へ移っていったときに、仕事の選択肢がこんなにあるんだと気づいたのが大きかったのかもしれません。興味の範囲が広かったので、手当たり次第何でもやりました(笑)。大学生のときには、服飾の専門学校に通っていた友達に誘われて、自分で服を作ったこともあって。今はアパレルにも興味があります。

イラストレーターの仕事って、雑誌の挿絵や、グッズのイラストを提供するところまでで、素材やレイアウトまで決められません。モノのデフォルトが決まっているものじゃなくて、せっかくならプロダクトからちゃんと作りたいと思っていて。だから、チームを持ちたいんです。プランできる人から、パタンナー、生産管理できる人……みたいに。

ニシクボさんが手がけたコーデュロイ素材のサコッシュ(詳細はこちら
これからもイラストにとどまらず、いろんなことに挑戦していくつもり、と意気込みを語るニシクボさん。その一方で、個展では「ジークレー」というデジタル版画で、イラストを手軽に購入してもらえるような展開も考えているそう。

ニシクボ実際のクオリティに近く、なるべく安価に渡せるのが、ジークレーという版画技法。海外だと自宅に絵画があったりして、アートはとっても身近な存在なんですが、日本人って絵を買わないじゃないですか。私自身、有名な方の美術展などに行く機会はあったんですが、絵を買うハードルが高いと思っていた気がして。買いやすい価格に設定して、しかもそのまま家に持ち帰ってもらえるくらい気軽にしたいんです。それが、その人の生活を彩る一部になってくれたら嬉しいなって。

私は何かしら心が揺れたものしか描いてないです。

ギャラリーコンパクトでは、みなさんの「ひとめぼれ」の瞬間を集める「ひとめぼれギャラリー」を展開します。ニシクボさんが描いているのは、想像上のものというより、日常の一場面を切り取ったようなイラスト。きっと、ひとめぼれして「描きたい」という原動力になるのかなと思うのですが、ニシクボさんがひとめぼれする瞬間、胸がときめくポイントって?

ニシクボ そういう意味でいうと、私は何かしら心が揺れたものしか描いてないです。実体験もありのまま描こうと思っているので、恋愛に関する絵はほとんど描いていないですね(笑)。

胸がときめくのは、かっこいい世界を持っている人。「このロゴデザインめっちゃいいな!」ってひとめぼれすると、かならず行き着くのが、アートディレクターの平林奈緒美さん。ファッションブランドの「YAECA」や、キュレーションストア「la kagu」、フレンチフライ専門店「AND THE FRIET」などを手がけていて、どれもドストライク! デザインってクライアントさんがいて、要望を形に落とし込んでいくわけですが、自分の世界をそこまで出せるのがすごいです。

平林奈緒美さんが手がけた「AND THE FRIET」パッケージ

ニシクボつい最近のひとめぼれでいくと、バーバリーのチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任されたリカルド・ティッシさん。新しいベーシックのデザインを提案されているんですが、男女がまじわっているようなビジュアルなんですよね。私はユニセックスなものに惚れがちなんで。こりゃたまらん!ってなりました。

バーバリーが発表した「B Classic」のビジュアルを、ニシクボさんがイラスト化したもの

ニシクボあとは音楽からの影響も大きいんですが、椎名林檎さんと宮本浩次さんのミュージックビデオ(以下、MV)も最高でした。MVでは林檎さんの世界観がありつつ、宮本さんをメインにして、その世界を作り出せているのがかっこよかった。このMVを見たとき、ちょうどプライベートでヘコんでいたときだったんですけど、MVを見てそのかっこよさに我に帰りました。「あぶないあぶない」って、引き戻されたような感覚です。こういうかっこいいものを作り出せる人を目指さなければ! と。

椎名林檎と宮本浩次 獣ゆく細道

ニシクボ「人生のひとめぼれ」として、忘れてはいけないのが、実家で飼っている愛犬のパルです。昔から犬が大好きで、高校生の時にバイト代を貯めて東京のブリーダーさんからもらい受けました。私の地元にはペットショップがなかったので、ネットで探していたのですが、この子を見た瞬間にひとめぼれしました。私の永遠の相棒であり、アイドルです。

愛犬のパル

女性たちには、楽しく生きていってほしいな。

今回、ギャラリーコンパクトにはどんな想いを込められましたか?

ニシクボ「春」がテーマだったので、「ウサギ」「自転車」「ランドセル」をモチーフにしました。

「ウサギ」は、イースター(復活祭)のイメージ。日々生きているなかで、みんないろいろあるじゃないですか。それでも、何事もなかったように懸命に生きている。だから、何回でも立ち上がって、諦めずにがんばって! 復活して! みたいな感じですかね。それを、ふざけたタッチのウサギで表現しました。自分が持つとなったときに、マジメなものよりポップな方が持ち歩きやすいし、気軽だなって思えるので。それに、ふざけてるようなデザインのコンパクトってないから、いいかなって(笑)。

「立ち上がれ!何度でも」

ニシクボ「自転車」は、オードリーヘップバーンの一番好きな写真をモチーフに描きました。彼女は、絶対にすたれない、美しい人。しかも、美しいだけじゃなくて強さを感じます。自転車に乗っている「花」も、枯れてしまう儚さがあるようでいて、次の芽が出てくる強さがある。私は絵を描くとき、バイクとか、スケボーとか、人物を乗り物に乗せがちなんですけど、「そこで立ち止まってないで、乗り物に乗って未来に向かってってほしい」という想いがあります。

「スーパーガールになるために」

ニシクボ「ランドセル」は、なかなかこの歳になって接する機会がないものだけど、幼かったころの素直な気持ちを大切にして、何も考えずに好きなことをしてほしいという想いを込めています。これから始まることのきっかけになってもらえたら素敵ですよね。単に可愛いだけではなく「これを見て頑張ろう」という励ましの存在になりたいです。

「明るい未来」
普段の絵より、ラフなタッチに見えますが、何か理由があるのでしょうか。

ニシクボラフに持って、生活に溶け込むような存在になってほしいと思ったので、あえてラクガキみたいな線にしてみました。それでいて、持っているとワクワクして、新しい生活の励みになるような。私も含めてですが、女性たちには、楽しく生きていってほしいな。

ARTIST PROFILE
ニシクボサユリ
デザイナー/イラストレーター
2010年 三重県立看護大学卒業後、2015年に東京デザインプレックス研究所
空間デザインコース終了。2015年よりInstagramへイラストの投稿を開始。現在はSoftbankやadidas、資生堂など様々なブランドとのコラボ、雑誌、広告への寄稿、展示会の実施など幅広い分野で活動している。http://www.sayurinishikubo.com/

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