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食虫植物のように毒々しくポップ。ヤナギダマサミ インタビュー

Jan 9.2019
  • インタビュー・テキスト:栗本千尋
  • 撮影:中村ナリコ
  • 編集:川浦慧(CINRA.NET)

毒々しいほどビビッドな色彩で描かれたモチーフたちは、よーく見ると、セクシャルな比喩を咲かせている……。そんな、独特な世界観のイラストを発信している、ヤナギダマサミさん。

ギャラリーコンパクトでは、「持ち歩けるアートピース」をテーマに、ヤナギダさんに3つのイラストを手がけていただきました。エロチックをポップに擬態させて、あなたを「春の素敵な予感」へと誘いこみます。

落書きで描いていた絵の方が自分らしくてよかったんじゃないのかなって思ったんです。

静岡の秘境から直接来たというその人物は、たくさんのステッカーが貼られたスーツケースを携えて現れました。「絵を描くことは、自分の状態を知るための排泄のような行為」と話すヤナギダさんに、イラストレーターになった経緯からうかがいます。

ヤナギダ小さい頃から日常的に絵を描いていたので、僕にとってはトイレと一緒で、デトックスみたいなもの。朝起きたらまず絵を描くんですが、「昨日はどんな日だったかな」と思い返すところからイメージを膨らませます。それもあって、昨日のできごとから目を背けると描けないの。正直に自分を見せびらかすように、心を身軽にして、今の自分の状態に気づくことが大事。

あと一息なパヒュームにスリリングな薔薇を転がすヨハンソン
迂闊なフェスティバルに見憶えののないミステリアス

ヤナギダ僕の絵ってセクシャルなモチーフや、絡み合ったようなものが多いんですが、毎度エッチなことをしているわけではなく(笑)、メンタルをセミヌードにしているということです。

ヤナギダマサミ
もともとイラストレーターになるつもりはなかったそうですが、そうやって絵を描いているうちに、あるお店に大きな油絵を発注されることに。これが、絵と向き合うきっかけのひとつになります。

ヤナギダそれが、25歳くらいのときでした。しかも、2mくらいの大きなサイズ。外の景色も見ず、家にこもって、空想だけを頼りに描いていました。ところが3か月くらいで仕上げるつもりが、5年経っても仕上がらなくて(笑)。空と山を見ながら描いた方がいいんじゃないかと思って、アトリエを探す旅に出ました。

そうして各地を転々と旅して実家のある静岡に帰ったとき、素敵な場所だと再認識。目の前に海があって、富士山が見えるし、ほどよく街もある。そこで、「最後はここで絵を仕上げよう」と、地元へ戻ることになったといいます。

ヤナギダそれでもね、やっぱり仕上がらないの(笑)。10年以上この絵を描き続けていたから、発注してくれたお店もついに潰れちゃって。「これで解放されたかも」って、思い切って絵を捨てました。

そのとき、落書きで描いていた絵の方が自分らしくてよかったんじゃないのかなって思ったんです。落書きした絵をメールでいろんな友達に送るのが好きなんですけど、メールをストックしてくれていた人が勝手にブログをはじめてて(笑)。それを引き継いで、自分でイラストをアップするようになりました。そのあとも、TwitterやInstagramを始めたことで、友達以外の人に見られる機会が増えたんです。

Instagramを遡って見てみると、気になる投稿を見つけました。イラストだけでなく、手芸をされていた時期があったようです。表現方法を模索されてきたということなのでしょうか。
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ヤナギダ手芸の作品を投稿していた時期は、盲目のソプラノ歌手にCDジャケットを頼まれた頃かな。ピアノを弾きながら歌っている姿を描きたいなと思って、描いたはいいけど、彼女には見ることができない。これだと本人に伝わらないと思って、絵の上を赤い糸で手芸して、手触りがわかるようにしたんです。特にイラストにこだわっているわけじゃないので。伝えたいメッセージを、伝わりやすい方法で表現しているだけ。だから、これからも表現方法は変わっていくかもしれない。

「死ぬまでに人間が流す涙の量って決まってるのかな」って思ったんです。

ヤナギダさんの描くイラストは、子供にも好まれそうな、わかりやすい配色。「それにつられて親子で飛びついてみたはいいけど、『あっこれ、子供に見せたらダメなやつだったかも』と、親がハッとする瞬間を見るのが好き」と話します。カラフルなカラーと、ポップなモチーフにつられて、寄っていってしまう。見ていいのかな? なんて考えながらも、つい目が離せなくなる。なんだか、まるで食虫植物のようです。

ヤナギダいいですね〜、食虫植物大好きなんで。一番尊敬する昆虫はハナカマキリなんですけど、彼らは葉っぱにもなるし、木の幹にもなる。ランの花に擬態して、蜜を吸いに来た虫をパクッといっちゃうの。あんなに武器を持っているのに擬態までして、欲張りなんでしょうね。そういうのが好き。

見る人の反応を楽しんでいる姿が目に浮かぶようです(笑)。その反応を見るためにセクシャルなモチーフを?

ヤナギダエロの原点としては、エッチな種をたくさん植えてもらった時期があって。世のおじいちゃんたちは何をしているのかなって気になって、5年間くらい遺跡発掘のお手伝いをしていたんですよ。遺跡発掘の現場って、定年退職した人たちの再雇用の場だから。

それでね、おじいちゃん、おばあちゃんって本当にエッチなんですよ。死ぬまで性欲も育つんだなって、そのときに知りました。もちろん、高齢だしフィジカル的には難しいから、官能的に言葉で愛し合うの。

それに、子供みたいによく泣くんです。前に勤めていた誰か亡くなったっていう報告が朝礼で出ると、それを聞いて泣き、嬉しいことがあったときには発掘中でも泣き。

そういう姿を見たときに、「死ぬまでに人間が流す涙の量って決まってるのかな」って思ったんです。これまでの人生で泣き足りなかった分を、今になって泣いているのかなって。それなら、若いうちに思いっきり感情表現しておいた方がいいし、エッチもしておいた方がいいんじゃないのって。だって、もっと若いときに素直になっていたら、出会える景色が違っていたかもしれない、潜在能力にも気づけていたかもしれない。

「秘境でフルスイングしている人」に、ひとめぼれしちゃう。

ギャラリーコンパクトでは、みなさんの「ひとめぼれ」の瞬間を集める「ひとめぼれギャラリー」を展開します。ヤナギダさんがひとめぼれする瞬間、胸がときめくポイントって?

ヤナギダ全国のいろんな土地で個展をしているんですが、それは、知らない土地に行って、地域の体温を感じさせてもらうのが好きだからなんです。

家族で食べに行くご飯屋さんとか、お気に入りの場所とかを教えてもらって、その地域にとっての「記憶のある場所」に行くのが好き。知らない場所で、誰にも知られていないようなゼロの自分がいて、これまで遭ったことのない出来事にフルスイングしているときが、一番の胸キュンポイントですね。

そんなヤナギダさんにとっての「アイドル」は、「秘境でフルスイング」しているおじいちゃん、おばあちゃんたち。

ヤナギダ静岡の「松風」っていう定食屋さんのおっちゃんが僕のアイドルですね〜。その人は猟師でもあるんだけど、鹿とか猪とかスッポンとか、自分が住んでいる山でとれたものを提供しているんです。食材が全部天然なんだけど、材料費がかかってないからその分安くって。興津っていう駅から、Googleマップだと10km、車で30分なんだけど、その10kmがただもんじゃない。だって、山を2つか3つ越えるんですよ(笑)。秘境にあるの。山を見ても僕たちは「山がある」としか思わないけど、「松風」のおっちゃんにはご馳走に見えているみたい。僕の中で一番エロイ人っすね。

静岡の「松風」のおっちゃん

ヤナギダあと、都城の「善助ファーム」の久永おじいちゃんも面白い。都城は農業が盛んなところなんだけど、農家の人たちが口を揃えて「すごい」って言うカリスマおじいちゃんがいて、それが久永おじいちゃん。自分で家を建てて、野菜を作っているんです。市場にあまり出回らない珍しい野菜を作って、町のおしゃれなイタリアンのシェフたちに提供している。

「善助ファーム」の久永さん

ヤナギダあとは、毎年お世話になっているのが、長野の大田さん。お米づくりをしているんだけど、その農作業の手伝いをするために、毎年4月に長野で個展を開くようにしているんです。その土地のことを知るなら、農作業が一番いい。地方って、なんてまぶしいんだろうって思います。そういうブリリアントな人たちと出会うことで、自分の可能性に種をまくのがたまらないんです。

長野の大田さん

それぞれの呪文を見つけて、このコンパクトでいい予感にまみれてもらえたら嬉しい。

今回、「春」をテーマにイラストを描いていただきました。ギャラリーコンパクトに、どんな想いを込められたのでしょうか。
ヤナギダさんがイラストを描いた、ギャラリーコンパクト

ヤナギダ「春」というと、卒業して別れがあったり、新しいことがはじまる季節。その中で、これからはじまる不安や希望をみんな抱えている。

だから、パウダーと一緒に、いい予感の呪文をふりまいてほしいですね。それで、素敵な出来事を引き寄せてほしい。

ヤナギダさんなら、どんな呪文を唱えますか?

ヤナギダ僕はいつも「鮮やかな記憶があふれ出しますように」っていう呪文を、3回唱えているんです。悩む必要もないことで悩んで、いつまでもくよくよしているより、鮮やかな記憶でいっぱいにして、早く笑い飛ばしてしまった方がいい。

もちろん、不安とか、傷つく出来事を記憶からは消せないけど、新しい記憶を入れることによって薄めることはできるので。そうして、新しい、鮮やかな記憶に出会っていってほしいです。それぞれの呪文を見つけて、このコンパクトでいい予感にまみれてもらえたら嬉しいです。

ARTIST PROFILE
ヤナギダマサミ
イラストレーター。「栄養バランスは地球バランス」。マヤカシ色な絵に連れ去られながら旅する絵かき。https://www.instagram.com/yanagidamasami/

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